鎔境

 一度で離れてしまうのが惜しかった。多分、それが切っ掛けだったのだろうと思う。
 そうして自分から再び手を伸ばしたにもかかわらず、指で開いたそこから白濁した粘液が零れるのを見た瞬間、頭に一気に血が上って訳がわからなくなった。
 急いて押し入った後膣は先程までのきつさが和らぎ、痙攣するように蠢いて馬超を包み込む。その柔らかさは、どこか口淫を思わせた。
 性欲から一番かけ離れた場所にいるような彼から齎される耐え難いほどの快楽に舌打ちして腰を揺すれば、身体の下から悲鳴にも似た嬌声が上がった。
「もうき……も、き」
 啜り泣きに混じって、趙雲が舌足らずに名前を呼んでいる。
 何度こうして抱き合っても、まだ足りなく思うのは彼も同じようだった。もっと、と珍しく頑是無い様子でねだる声が甘く蕩けている。
 どうにか自制し、逸る腰の動きを止めれば、繋がった場所を淫らに押し付けてきた。咎めるように髪を引き、濡れた眦を舐める。
「どう……っ、動い、て……」
「慌てるな」
 泣きたいのは俺の方だ。
 愚痴を零しそうになるのを堪えて額やこめかみ、鼻の頭や頬に宥める口付けを落とす。掻き上げた髪の生え際を吸うと、腕の中の身体が震えた。そういえばここは性感帯だった、ともう一度唇を押し付ける。それから、鼻にかかった喘ぎ声ごと呼吸を奪った。
「……孟起が中にいる」
 少し落ち着いたのか、趙雲が小さく笑う。
「随分艶っぽい言い方をするじゃないか」
「本当の事でしょう」
 たわいのない会話にさえ、互いに抑え込んでいる快感が滲むのは仕方ない。試しに削げた下腹を撫でてこの辺かと尋ねると、趙雲が息を詰めるのと同時に中と外、両方が震えた。
 我慢の効かない犬のように堰を切って腰を動かせば、短く痙攣するみたいに背が跳ねる。
 激しく身悶えて縋り付かれ、馬超は僅かに残っていた理性を捨てた。
 腕に立てられた爪が食い込み、その鋭い痛みが意識ごと皮膚を引っ掻いてゆく。自分を呼ぶ趙雲の声が高く細く震えて途切れた。
 このまま混ざり合うほど愛し合えたらいい。
 そう願って果てた。