枯れない花

 このまま水になって溶けてしまうのではないか。
 馬超は、身体の下で乱れる趙雲を見下ろして思った。
 目には涙、肌には珠のような汗。そして、自分が押し入っている彼の体内も、これ以上ないほどとろんで体液が溢れている。腰を蠢かせる度に、いやらしい水音が響いていた。
「子龍」
 本当に溶けてしまわないかと、不安になって名を呼んだ。与え続けていた快楽を途切れさせ、趙雲の整った顔をじっと見る。
「、は……」
 潤んだ目を向けられた。
 甘ったるい声は返事にこそなっていないが、取りあえず反応があったことに安堵する。
「なんだ」
 なんだ。良かった。
「も……き」
 胸を撫で下ろしていると、趙雲が腰を押し付けてきた。
「も、っと……」
 水分を湛えた瞳が、濡れた身体が、か細くねだる。
 馬超は応えて大きく腰を突き上げてやった。
「ん、あぁ」
 艶に塗れた声が上がる。
「っくそ」
 彼から齎されるものの全てが水気を帯びて滴るようだ。
 いつもは温かく乾いた声を聞かせるクセに。真夏の暑い最中でも汗一つ掻かずにいるクセに。涙なんか……疾うに枯れ果てているクセに。
 それら全部の原因が自分ではないけれど。自分勝手な行いのせいで、どれだけの心労を趙雲に強い、涙を流させたのか。絞り取られて、搾り取られて、彼はいつも乾いている。
 だから与えるのだ。
「俺がお前に水をやるから」
 既に馬超の声など聞こえてはいないだろう趙雲へ告げる。
 俺が負わせた瑕だから、俺が舐めて癒してやる。
 頼りない彼の身体を抱きながら、しかし、馬超は自嘲気味に嗤った。
「なんて、カッコイイこと言ってみたりしてな」
 趙雲を慰めるような言葉を吐きながら、本当は自分が彼を抱きたいだけなのだ。


 だからまだ、乾ききって枯れてしまわないで。
 涙も汗も、血潮さえ望むまま上げるから。
 いつまで経っても、ここにいて。