暁降ち(あかときくたち)

 一人取り残された居室で、馬超は卓に用意した酒を舐めた。
 酒舗の主人が強く勧めてきた江東の産だというそれは、口中に含むと米の味が広がり、雑味などほとんど感じられない。成都の酒よりも酒精分がいくらか強いのか、冷えた身体に温もりの戻るのが常よりも早い気がした。
 臓腑に沁みるとはまさにこの事だろうか、と思う。
 馬超は杯に僅か残った酒を呷り、少し離れた壁際で眠る趙雲に目を投げた。
 いつの間に月が出たものか、健やかに寝息を立てる彼の端麗な顔を窓越しの柔らかな明かりが照らし出している。薄く開いた桃色の、ふくりとした唇の隙間から皓歯が覗いていた。
 伏せられた眸は、未だ馬超を映さない。月の光さえ弾く見事な髪が磨き込まれた床に揺蕩い、深く黒い河にも似て見える。
 目を開けている時の凛然とした美しさは鳴りを潜め、趙雲の花貌はただひたすらに穏やかで満ち足りていた。
「……まったく、人騒がせな……」
 起こさぬよう小さく呟き、苦笑を扱き混ぜた息を吐く。
 こんな風に潰れるまで趙雲が痛飲した原因は、口当たりの良い甘い酒に違いない。
 西涼で醸されたという葡萄酒は珍しかろうと、懐かしさも手伝って二つ返事で買い求めたのは馬超だ。酒宴などで供される酒とは全く異なる風味を彼はいたく気に入ったようで、乞われるままに盃に注いでやったのがいけなかったと、今更のように反省する。
 そもそも水代わりに酒を呑む馬超と、舐める程度で精一杯の趙雲を同じ尺度で考えて良い訳がない。それでも同じように盃を重ねられる事が嬉しかったのか、無邪気に喜ぶ彼の顔を曇らせたくはなかったのだ。
「……惚れた弱みか」
 改めて酒で満たした盃を傾けると、馬超は己に呆れたように肩を竦めた。
「ん……」
 不意にくぐもった声が聞こえ、袍を上掛けにした小山が僅かに身動ぐ。
「……ぁ、は……、あ」
 胸に溜まった熱い息を吐き出すようにして、趙雲は気怠げに身を起こした。
「起きたか」
 腰を落としていながらふらつく身体は、まだ酔いも醒めてはいないのだろう。その証拠に手足を使って近付いてくる彼には、馬超の声など届いていないようだった。
 猫のように這い寄り、酒盃を持った男の腕をそっと掴む。
「お前はもう飲むな」
 まだ飲み足りないとは言わせない。
 しな垂れかかってきた趙雲からは、葡萄酒の甘い香りが立ち上っていた。
「や……」
 中身を確かめるように顔を近付ける彼から盃を離し、底に残った酒まで綺麗に干す。空になったそれを卓に戻すと、頬に赤味の差した趙雲の顔を見詰めた。
「お前、俺が誰だかわかってるのか?」
 我ながら不本意以外の何ものでもない。
 何が悲しくてこんな事を問わなければならないのかと、馬超が肩を落とす。
「うん、わかる……」
 拙く答えた趙雲は、ぺたりと床に座り込んだまま馬超を斜に見上げた。
 唇に貼り付いた二、三本の髪を払いながら微笑む様は確かに可愛らしい。だが、呂律は回っておらず、言葉の意味を理解しているかは甚だ怪しげだ。
「なら言ってみろ、俺は誰だ」
 ここで張飛や馬岱ならともかく、姜維の名前でも出された日には元々大して長くもない堪忍袋の緒も切れよう。しかし自棄とばかりに腹を括ると、小首を傾げた白皙に問い掛けた。
「……もうき」
 朱い唇が薄く開き、馬超の字を紡ぐ。
「わたしの、孟…起……っ」
 甘ったるく囁いた趙雲の掠れ声が頬を掠めた。
 揺らいだ肩からしなやかな腕が伸び、馬超の硬い身体に巻き付いて思うさまに抱き締められる。
「……っ」
「……かわいい、わたし、の、……」
 頬を押し当ててくる趙雲の、低く柔らかな声が耳元を舐めた。
「わたしの、おとこ」
 白い指が求めるように馬超の削げた頬を撫でる。ともすれば微睡んでしまいかねない趙雲の文字通り酔った口が綴るのは、殊更に甘い睦みの言葉だ。
 潤んだ瞳が見上げてくる。熱の籠もった双眸には、平素の凛乎とした輝きは欠片もない。恋情の匂い立つ肌を媚びるように擦り寄せ、趙雲は密やかに、けれど確かな声で「抱いて」と囁いた。
 馬超の片手に握られていた盃が震え、それから微かな音を立てて落ちた。

 武人らしくないすんなりとした指が、馬超の下りた前髪を相手に遊んでいる。何かの具合ですぐに顰める癖の付いた眉根を指の腹が撫で、慈しむようにそのまま頬の輪郭を描くと唇に辿り着いた。
 児戯のように遊び回るのを好きにさせながら、馬超が引き締まった趙雲の腰に手を伸ばす。
 意図を察したものか、柔らかに綻んだ趙雲の唇が近付いて、ゆっくりと覆い被さってきた。
 口付けの際に、初めから小さく口を開けてしまう彼のふしだらな癖は、馬超自身が躾けたものだ。
「……ぁん、……」
 馬超の舌が皓い歯列を割って侵入するのを受け入れ、より深く誘う趙雲は、清廉であり淫蕩でもある。
 女のように小さくはない口内を味わいながら、馬超は乱れた着衣の隙間から手を差し入れた。掌に伝わる滑らかな肌の感触に、誰か他にこれを楽しんだ男はいないかと、僅かな猜疑が湧き起こる。
 初めて趙雲と一晩を過ごした時は壊してしまわないかと本気で心配したものだったが、清廉だといった身体は驚くほど柔軟に馬超を受け入れた。それが未だ、頭のどこかに澱となってこびり付いているのかもしれない。
「ゃ、ぁ……っ」
 悲鳴とも嬌声とも付かない小さな声は、馬超の感情に直接訴えかけてくる。
 深くなる口付けに濡れた水音が聞こえるほどになる頃には、趙雲の身体からはすっかり力が抜けていた。
「う……」
 口付けの合間に低く声を漏らした馬超が、薄く目を開けて趙雲を見る。
「もぅき、も…き………」
 唇を吸い合うだけでも、堪らないといった風情だった。少しでも離れようとすると、しなやかな腕を首に回して馬超のそれを追うようにしてくる。
 欲しがりな口に吸い付きながら、馬超は彼の口内に自分の唾液を注いだ。
 荒い呼吸に早くも音を上げそうになった趙雲の細い顎を伝って、飲み込めない唾液が滴り落ちてゆく。
「あ、あ、あ」
 切れ切れに紡がれる息と、鼻にかかった強請るような声は、彼がいつもより早急に追い上げられている証左かもしれない。
 その声に誘われるようにして馬超の舌先が、綺麗に浮き彫りになった鎖骨に辿り着いた。
「あ……」
 骨の感触がすぐにわかる。
 薄い皮膚に齧り付くと、趙雲からは短い声が上がった。
 吸い上げた鬱血の痕は色濃く残る。今はまだ鮮やかなそれが肌理の細かなそこらに散ってゆく様は、馬超の征服欲に火を付けた。
 北の生まれだからだろうか、羌族の血を引く馬超にも劣らぬ趙雲の膚はどこもかしこも色が薄く、闇に置いてはまるで自ら光を放つようだと思う。興が乗るにつれ乱暴になってしまいがちな愛撫に蕩かされてゆくのも、いつものことだ。緩めてあった袍も、邪魔な下衣も取り去ると、冷えた夜風に嬲られた肌が暖を求めて更にきつくしがみついてくる。
「あったか…い…」
 酒の巡りが馬超の体温を更に上げ、吹き出すような汗が胸元に浮いていた。
 趙雲が舌を出し、濡れた男の胸板をそっと舐める。
「し、りゅう……っ」
 悪戯な舌の感触に、噛み締めた歯の隙間から呻き声が零れた。
 気紛れな舌先が硬い胸を這う。滑るその感触に寒気を覚えはしたが、そこはかとなく生じる快楽までを拾い上げたせいで、馬超は蠢く趙雲を制することが出来なかった。
 趙雲の腕が、馬超の肩をそっと押す。着乱れた服の緩くはだけた胸に手を差し込み、馬乗りになった形で目立つ喉仏に吸い付いてきた。
「ぅ、……っ」
 帯が解かれ、身を覆うものがなくなっても、艶冶な笑みを浮かべる趙雲の手を拒めない。露わになった肌に直接触れる太腿と湿った性器が、否応なしに馬超を煽る。
「……お、おねがい……」
 悩ましげな息を吐く趙雲は、いつの間にやら馬超の目の前で自らの乳嘴を捻っていた。短く整えられた爪の先が鋭く食い込む胸の小さな突起は、赤く膨らんだ茱萸の実のようにも見える。
「吸っ…て……」
 肘で身体を起こした馬超の顔の前、自分の手で縊り出した乳首を差し出してきた。
 興奮に尖る実は、爪先に押し潰されてひしゃげている。
「ああっ」
 趙雲の指ごと、馬超はその乳首を口に含んだ。解けてゆく指先も共に吸い、舌先で抉る。
「あん、あ……ぅ、う……」
 もう片方を揉んでいる趙雲の指を払いのけ、馬超は容赦のない力で乳輪ごとそこを押し込んだ。口の中の突起は既に芯を持ち、きつく吸うごとに膨らみを増してゆく。
「もっと強く……咬ん……」
 淫らな彼の要求に応えるように、腫れたようなそれを前歯で挟んだ。過敏に背筋を仰け反らせた趙雲の腰を掴み、胡座を掻いた上に乗せる。
 指で胸全体を揉み込むみたいに、馬超は手を動かした。
 女のような膨らみこそないにしろ、その突起はひどく敏感で、舐め続けるだけで趙雲は達してしまうかもしれない。
 それほどに鋭い反応を返す趙雲の馬超の腰を跨いで大きく開かれた脚の間からは、透明な蜜が止めどなく溢れ出していた。胸から追われた指が切なげに、薄い皮を摘んでいる。
「あ……も、ぅき……」
 男の亜麻色の頭を抱いて、口元に胸を押し付けた。
 そんな場末の色妓のような仕草が、今宵の趙雲にはやけに似合っている。
 涼やかに整った美貌が浅ましい欲に歪んでゆく様は、そこにあるだけで馬超の劣情を引き摺り出した。袖を通したに過ぎない袍の下では、男根が今にもはぜてしまいそうに成長している。
 じわりと滲む体液を白い趙雲の股に擦り付け、馬超もまた腰を動かした。
「……いい……っ」
 胸を吸われて股間を弄られ、趙雲から泣き混じりの声が上がる。
 薄く汗を刷いた胸元からようやく顔を上げた馬超は、趙雲の身体を床に沈めた。
 涙を湛えた切れ長の目で馬超を見返す彼の、散々に咬まれた乳首が痛々しい。だが趙雲は、その痛みの中にも確実に快楽を見出している。その証拠に馬超の身体を置いて開かれた脚の間では、濡れた性器が頭を擡げていた。
「もっと、ね、……もっと……」
 相変わらず舌足らずな声が、馬超を呼んでいる。
 飲み付けない酒のせいか、溺れるように悦楽に流される趙雲の幼い身振りが危うい熱を上げさせた。
 掠れた声に誘われるまま、馬超が横たわった身の下方へと向かう。抉れたような腹や中央の小さな窪みに舌先で触れては趙雲をまた啼かせると、前触れもなく柔らかな恥毛に鼻先を突っ込んだ。
「ひゃ……ぁ」
 見た目より柔らかい髪に差し込まれる指は、押し止めるのではなく先を促している。
 丘に広がる薄い繊毛に指を絡ませて、濡れた趙雲の性器をつるりと剥き出した。
「……っひ!」
 尽きる事を知らぬように溢れ出す愛液は、勃ち上がる幹を伝い根元に消えてゆく。馬超はその汁を啜るように先端に向かって舐め上げた。
「あぁ」
 色を濃くした先端の割れ目を指でなぞると、容易に腰が跳ねる。震えるそれを掴み、はしたなく顔を出した性器を甘く吸い上げただけで、趙雲は呆気なく果てた。
「……っ!」
 男の口中に吐精しながら、思わずといった風に趙雲が口元を手で押さえ込む。馬超が口を離した後でさえ繰り返し身体の奥から押し寄せる波に逆らえないのか、陰茎から二度、三度と白汁を吐き出した。
 喉に絡み付くそれを飲み下し、荒く息を吐きながら床の上に弛緩した趙雲の身体に覆い被さる。
 横を向く彼の顔を引き戻させて、馬超はもう一度深く口付けた。
「後ろを向け」
 命じるように短く言った馬超が、まるで立つ様子のない腰を掴んで尻を叩く。
 小気味良い音にのろのろと従う趙雲の白い裸身に指を這わせると、引き絞った弓のように背筋が反り返った。
「は……」
 見せ付けるように脚を開き、腰を掲げた趙雲が無理な体勢のまま馬超に目を向けている。口に咥えた自分の指に吸い付き、流した視線は婀娜めいて絡み付くようだった。
「ぅ…ぁ…あん……」
 濡れた内股が震えている。一度達した後、またもや角度を取り戻してきた性器からは濁った愛液が滲み出ていた。
 すんなりとした太腿を掴むと、そのぬめりで馬超の指が滑る。
 眼前で揺れている尻にそっと手を掛ければ、期待にか趙雲の頬が紅潮した。
 今日まだ一度も触れていない処女地に、知らず馬超の喉も鳴る。
 合わせられた肉の狭間に指をかければ、餅のような肌が指を弾いた。
「……どうされたい……」
 指を尻の谷間に食ませたまま、馬超が独り言のように呟く。
「……もっと、おく…」
 強請る趙雲の声に白い肉をそっと指で押し広げてみれば、淡く色付いた肌の中央に小さく息衝く紅い孔が見えた。身体を重ねるとすぐに馬超を受け入れたがるというのに、自ら濡れる事を知らないそれが哀れでさえある。
「……は、お前……もう、開いて……」
 薄暗い灯火の元ですらもはっきりとわかる、仄朱く染まったそこに馬超は親指をかけた。滑らかな粘膜を引いて開かせ、もう一方の手は萌し始めている趙雲の先端に伸ばす。
「ぁぅ……っ」
 大きな爪の先でつるりとした鈴口を抉り、半ば強制的に露を吐かせた。白濁の混じった粘つく汁を掌に堪るほど扱き出し、薄い背中に宥めるように口付ける。
「大洪水だ、子龍」
「あ、あ……言わな…で…」
 喉の奥を鳴らすように笑った馬超は、趙雲の生み出した淫らな露を指に纏わり付かせ、震える小さな入り口に擦り付けた。呼吸するように開閉を繰り返すそこへ、指を埋没させてゆく。
「んぅっ!」
 一番長い中指と、器用に動く人差し指。
 節の目立つ、得物を握るのに相応しいそれが粘つく汁と共に、趙雲の内側にゆっくりと侵入していった。
 しっとりと絡み付く肉を掻き分けながら、そうして彼が一番弱い部分に触れる。
「あ、ああっ」
 怖じたように趙雲の身体が跳ねた。
 その反応に気を良くして再び同じ箇所を鞣すと、組み敷いた白い肢体が陸に打ち上げられた魚のように震えるのが見て取れる。
 更なる快を求め、はしたなくも己の欲に触れようとするのを見咎めて、伸びた手首を馬超は掴んだ。
「悪い手だな」
 根元を抑えてやれば、達する事の出来ない苦痛に趙雲の喉から涙混じりの声が零れる。
「も、もう……だめ、…だめ…」
 片頬を脱ぎ捨てた長衫に押し付け、啜り泣く彼の内部を探りながら馬超はゆっくりと膝を突いた。先程からの趙雲の媚態に天を衝くように成長した分身を、指を引き抜いた後膣に宛がう。
 口の輪を膨らませた小さな穴からは、細かな白い泡が吹き零れていた。
「も、…ねが…ぃ、……早…くぅ……っ」
 先端が触れただけだというにも関わらず、慎ましやかだった蕾が見事に開花している。
 柔らかく解れたそこが、吸い込むように馬超を捉えた。
「早く、何だ」
 だが、そう簡単に彼の求めるものを求めるままに与えてやるつもりなど、馬超にはない。
 淫らな孔の動きに一笑をくれただけで一旦は含ませたそれを引き出すと、趙雲の性感を甚振るように焦らし始めた。
 くぷ、と音を立てて蕾を逸れた男根の存在を殊更に知らしめるようにして、尻の狭間を撫で回す。それでいながら馬超は、揶揄を含んだ声で掴んだ腰を引き寄せた。
 真っ直ぐに伸びる背骨の終わりに唇を寄せ、甘く匂う肌に証を残す。
「……はや、く…これ…ほしぃ……」
 身体を支えていた趙雲の指が伸び、血脈を走らせている馬超の猛りに触れた。爪先が掠める事でまた一段と嵩を増すそれを、趙雲が蕩けたような目線で乞う。
 今のまま突き入れられる事を望んでいるように肘を突いて、両手を組む姿は祈りを捧げているようでもあった。
 見返る彼を眼差しで舐めながら、一つ息を吐いた馬超がゆっくりと亀頭を後膣に埋めてゆく。
「ぁあ……あ…」
 長く尾を引く声が趙雲から漏れた。
 深い充足感に恍惚として身体を揺さぶられる彼の、だらしなく開いた口元から涎が零れてはきつく皺の寄った服地に吸い込まれてゆく。
 しなやかな背を撓ませて、趙雲は馬超が身を沈めただけで快楽を極めてしまっていた。
「く、……っ」
 狭い花筒が思い切り収縮し、馬超の全てを搾り尽くそうとするように内襞を貪っていた男根を締め上げる動きを繰り返す。
 乳白色の粘つく液を脚に纏わり付かせて趙雲は、際限のないように成長してゆく馬超を呑み込んだ。
「は……ぁ、ん……っ」
 鼻に抜ける彼の声が、先を促すように闇に溶けてゆく。
「動く、ぞ…」
 楔を根元まで収めると、馬超が掠れた声で囁いた。
 背に重なった温度が抱き締めないのを物足りなく思うのか、もどかしげに趙雲が身を捩る。
 振り返ろうとしたその矢先、髪の間から覗く貝殻みたいな耳殻を舐め上げた。
「あぅ」
 腰を揺すり上げる度、乾いた布に頬が擦れているのが暗がりにも見てわかる。
 無感ではないだろうに痛みを訴えないのは、後膣で受け止める歓喜がそれを上回っているからかもしれない。
「あ、あ、あ……おっき……い…ぃ…っ」
 縊らんばかりに吸い付いてくる趙雲の襞から引き剥がした陰茎を、根元から先端まで大きく打ち付けるように出し入れする。
 平素であれば慎ましやかな孔は、今や馬超の形に広げられていた。成長しきった男の熱塊が出入りする度に、絶妙の間で締め上げ、或いは緩く解れてゆく。それに合わせて卑猥な水音が結合した箇所から立ち、溢れたものが趙雲の腿を穢した。
「あ、ああ……いい…っ…も、き……しぬ、しんじゃ……っ」
 叫んだ趙雲の長い黒髪が、両脇に分かれて滑り降りている。
 一束を指に絡ませて引いてみれば、仰け反った彼の顔は涙に塗れ、いやに朱い唇が物欲しげに濡れていた。
「……ぁん」
 繋がったままで口付ける。勢い、より深みに入り込んだ馬超は、趙雲を苦しませるほどに膨張した。
「…ぃ…っ、ひ……ぁあ……」
 急に体位を変えて後ろ向きのまま、胡座の上に乗せられた趙雲から悲鳴が上がる。
 自重で下がる身体が、易々と馬超を受け入れてしまうのを恐怖しているようだった。
 溜まった欲望を昇華させるように、馬超が腰の動きを激しくさせる。片腕を膝裏に差し入れて抱え、濡れた肉で趙雲の身体を貫いた。
「も……ゆる、…て…」
 薄く膜の張った玻璃の珠のような趙雲の眸が、ほんの一瞬大きく瞠られる。そのまま長い睫毛を伏せるに任せ、滑らかな頬に涙が零れ落ちた。
「……出す、ぞ……っ」
 懇願するようにも聞こえる彼の声に、馬超も限界まで押し上げられる。
 力任せに突き上げて趙雲の最奥に達すると、その勢いで猛る砲身を蠢く襞に擦り付けるように引き抜いた。
「あ……っ」
 後膣の縁で跳ねた馬超の先端が、白濁とした潮を吹き上げる。
 熱くて粘りけのある精は、白く瑞々しい背中にねっとりと降り注ぐ傍らで艶やかな髪にも飛び散った。
 共に縺れ込んだ服からは酷く淫蕩な匂いがしたが、弛緩した頭では大して気にもなりはしない。荒い息を吐き、触れた鼻先を擦り付け合う。二匹の蛇さながらに互いの身体に手を回して絡み合い、隙間をじわりと埋めるように伝わる生の体温に膠着した。
「……全部、私の……」
 汗を吸って重く湿った馬超の前髪を梳きながら、趙雲が夢見心地にうっとりと呟く。
 酒に正気を取られていた、と彼は言うかもしれない。一時の気の迷いだと、後になって過去から目を逸らすような真似をする事も考えられる。
 それでも、確かに趙雲は口に上らせたのだ。
 わたしの、孟起……。
 たわいないと思いつつ睦言を今だけは甘受して、馬超は乾く事のない唇を奪う。紡がれた言葉ごと、全てを手に出来ればいいと願いながら冷えた身体を抱き締め直した。
 朝が来れば夢幻と消え、珠玉の言の葉は儚く散ろうとも、趙雲は未だ腕の中にいる。
 室を満たしていた薄闇に光が射し暁の訪れが静かに告げられる中、そこだけを切り取るように二人して長袍に潜り込んで目を閉じた。